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こはんていじけん
湖畔亭事件
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年1月3日~5月2日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,335 字 · 137 页
湖畔亭から街道を五六町行った所に、山路に向ってそれる細い杣道があります。それを幾曲りして半里もたどると、何川の上流であるか、深い谷に出ます。谷に沿って危げな桟道が続きます。その最も危険な個所に少しばかり土崩れが出来ているのを、巡査の一人が発見したのです。
幾丈の断崖の下に、問題の三造があけに染って倒れていました。下は一面の岩です。恐らくは夕やみの桟道に足をすべらせて落ちたのでしょう。岩にはドス黒い血が気味悪く流れていました。肝心の犯人は、何の告白もせぬ内に、これが天罰でありましょうか、惨死をとげてしまったのです。
死体の懐中からは、河野がブリキ箱の中で見たという様々の贓品が発見されました。三造が逃亡の途中、不慮の死にあったことは明白です。
死体の運搬、検事達の臨検、村一杯の噂話し、一日は騒ぎの内に暮れました。三造の部屋であった、焚場も十分取調べた様です。しかし、死体焼却の痕跡については遂に何物をも発見する事が出来ませんでした。
事件は急転直下に落着したかと見えました。被害者の消失について、殺人の動機について、幾分曖昧な点があったにせよ、三造の犯行は何人も否定することは出来ません。