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こはん
湖畔
久生 十蘭
「文藝」1937(昭和12)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,180 字 · 47 页
活溌だが、けッして出過ぎたというのでなく、無邪気で人懐っこいので、ただもうおのれの愉快を俺にも分け与えたいという風だッた。
俺は喜悦の情で飛立つような思いをしていたが、本意を見抜かれるのを恥じ、
「サンキュー」
と言ったきり腰もあげなかった。
心中の苦悶は非常なもので、俺の不愛想な仕草が少女を怒らせ、このまま漕去ッてしまったらどうしようと、蹉りせんばかりに焦立っていた。
少女は邪気なく眼を瞠り、
「アラ、お厭ですの、お乗り遊ばせよ、実にどうも、大変に愉快ですわ」
と言いながら、笑靨の入った嫋かな手を俺の方へさし伸べた。
俺はいまにも泣きださんばかりだッたが、
「そうか、それほどに言うならば」
と如何にも面倒臭さそうにボートに乗り移った。
少女は身体をよじって向い合う席に俺を掛けさせ、
「もうちッと妾が漕ぎますから、疲れたら代って頂戴ナ」
と言いながら鮮やかな手付でオールを操りだした。俺は苦味のある微笑を洩しながら、
「ウム、そうか、俺に漕がせるつもりで、それで乗せたのだな」
と言うと、少女は愛らしく頷いて、
「エー左様、そのつもりでしたのヨ。仏ヶ崎の方まで行きたいんですけど、とてもあそこまで漕げませんもの」