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こはん

湖畔

久生 十蘭

「文藝」1937(昭和12)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,180 字 · 47 页

青空文庫

俺にとって顔のことを言われるほど不快なことはない。思わず厳しく眉を顰めて、

「何故だ、なぜそんなことをきく」

と詰るようにきめつけたが、少女は俺の語気に気付かぬ風で、

「宿では、戦争でお受けなさッた負傷だろうと言ッていますわ。華族様が戦争に行って弾丸にあたるというのは、たいしたことだと言っていましてヨ」

と改めて繁々と俺の顔を眺めた。子供らしい好奇心から、只々、事実のところを聞知りたいというので、俺の顔を見ながら一心に返事を待っている。俺は咄嗟になんと答えようもなく、

「左様サ、威海衛砲台の攻撃で、敵の砲弾にやられたのだ。醜いか、よッぽど怖らしいだろう」

と冗談にしてハグラかすと、少女は気を入れた真顔で、

「恐ろしいことなどありますものか、凛々しくて、お立派にさえ見えますわ」

と仔細らしく頷いてみせた。

少女は俺の面相を別になンだとも思ってはおらぬ。俺にとっては実に望外なことで、久しい間、心の中に蟠ッていた鬱懐が一時に晴れあがるような気がした。生涯を通じて、この時ほど天空海濶な思いをしたことがない。率直な男だったら、少女の手をとって押戴いたこッたろうが、なにしろ因果な気性なもンだから、むしろ毒々しい口調で、