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こはん

湖畔

久生 十蘭

「文藝」1937(昭和12)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,180 字 · 47 页

青空文庫

「オイオイ、俺は逆上などはせぬヨ。至極落着いていた。持出したくとも、別荘には刀もピストルもないのだ」

「どうでもよろしゅうございます。で、死体はどうなすッたので?」

「ボートに乗せて、重石をつけて湖へ投げこんでやった」

「どうしてそんなことをなさッたのです。なぜ現場へ放ッて置かれンかッたのですか」

「癪にさわってたまらぬから、湖水へ投込んでくれたのだ」

「場所はどの辺で?」

「仏ヶ崎の沖だ」

「あの辺は蘆ノ湖でも一番深い個所で、盛夏の候でも五十尋からありますが、貴君はそれを御承知の上で、そこへ捨てなさッたのですか」

「左様だ。それでは不都合か、具合が悪いか」

「ハー、それでは感動犯としての条件が怪しくなって来ます。承知でそういうことをなさッたというのはいけません。邸に置くのは穢らわしいから、湖畔まで引摺りだして夢中で押し落した、とでもいたしましょうか。そうでもいたしませんと」

俺は畳の上に足を投げだして、

「ボートで運んで捨てたッて、たいした不都合はなかろう、貴様は責任阻却と言ったが、そんなら俺は無罪ヨ。これでも俺は狂人なンだぜ。外国から帰るとき、印度洋の真ン中で確かに一度は発狂しているンだ。