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ゆしまもうで

湯島詣

泉 鏡花

「湯島詣」春陽堂、1899(明治32)年11月23日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,004 字 · 122 页

青空文庫

ときっぱりいって帰しましたよ。」

「ふう、」と上人は頷いて、じっと考え、

「いや、段々お心が静まって来て、好い御返事をなされた、結構じゃ。」といいかけて、梓のもの寂しげなる顔を見て、

「それでさっぱりとなされたかな。」

「ええ、さっぱりしたそのせいだろうと思うんです。まだ、金の蔓があって、一式のことに落籍して素人にしてやろうと、内々思ってました内は、何かしら心の底に温があったのを、断然、使を帰した上、夫人の心も知れて見れば、いかに棄身になった処で、無心などいえたものじゃあない。そうすりゃお蝶の方も、もうあれッきり、ふッつり切れた、私はこう孤島に独り残されたようで心細い、胸騒のするのはそのために違いないんです、お可愧いね、」といった清らかなる学士の笑顔はうら寂しい。

「ははあ、いや、お若い中また余り悟り澄さないのも宜しかろう。たんと迷わっしゃるも面白い。」とこの人こそ悟り切ったらしいことをいって、呵々と笑って、行きがけに大音で、「誰ぞ先生に茶を上げい。」

梓はまた机に向ったが、木の角では、心の跳るのが押え切れず、胸騒がする、気が鬱ぐ、もう引入れられそうで耐えられなくなって、香の薫に染みた不断着をそのまま、かかる時、梓が行くのは必ず湯島。