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ゆしまもうで
湯島詣
泉 鏡花
「湯島詣」春陽堂、1899(明治32)年11月23日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,004 字 · 122 页
」と向へ押遣ると、銚子が袴を着けたままで、盤の上をするすると歩いた。杯は一個横になって、飲みさしが流れていた。あえてこれを細く断る必要はないけれども、ちょうどその銚子が歩いた時、蝶吉が起きたからのことである。
梓の羽織の袖に、髷の摺合うばかり附着いて横坐になったが、鹿爪らしく膝に手を置き、近々と顔を差寄せて、
「おや、異う仰有いますね、異なことを。何ですッて、」
蝶吉は詰め寄りそうにしていった、梓は今辷らした銚子を更に手許へ引いて、
「まずお酌でもして頂こうかね、お燗ざましじゃあありますけれども、」
「ふん、」と言ったばかりで澄して見ている。
「いかがでございましょう、頂く訳には参りませんか、どうです、蝶さん、ここに是非一番君のお酌をという、厄介な、心懸の悪いのが出来上ったんですが、悪うございますか。」
「はあ、随分宜しゅうございましょう。」
梓は猪口を拾って、杯洗の水を切り、
「結構な訳ね、宜しければ、どうぞこれへ、」
「おやおや唯今内の人におことづけをなさいました、蝶吉姐さんに酌をして欲しいと仰有いますのは、ちょいとお前さんかい。」
「私でございます。」
「おお、心懸の可い奴じゃ、宜しい。