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ゆしまもうで

湯島詣

泉 鏡花

「湯島詣」春陽堂、1899(明治32)年11月23日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,004 字 · 122 页

青空文庫

二十二

天神下までは路も近し、洋燈を手にして宰領して、男坂の裏を抜けて、目的の処へ行くと、さあ知れない。

向うが言い違えたか、こっちで聞違えたか、覚えた番地を差配にまでかかって尋ねたが、皆くれ分らず、荷車について、ぐるぐる廻ってる、日は暮れる、暗くなる、二三時もかかったので、間が抜けてるじゃありませんか、と曳子はぶつぶつ叱言をいう。引返した処で寝る家もない場合。梓一人が迷惑して困じ切っている処を、灯がないと、交番で咎められたが、提灯の用意はなし、お前さん。その手に持ってる洋燈をお点けなさい、と曳子は中ッ肚だから口の裡で、幾たびも、ヘン間抜だな。

二十二

さるほどに神月梓は、暗夜、町中に灯した洋燈を持って、荷車の前に立たせられて、天神下をかしこここ、角の酒屋では伺います、莨屋の店でも少々、米屋の窓でもちょいとものを。いずれも知らない、存じませんな、を言わるるたび、背後から、噛着くように叱言をくッて、ほとんど耐え切れなくなると、雨が降出した。

梓は蒼くなるまでに、果は気を苛って、額がつッぱると思うほどな癇癪筋、一体大人しく、人に逆らわず、争わないだけ、いつもは殺しておく虫があるのでむらむらと、来た。