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ゆしまもうで
湯島詣
泉 鏡花
「湯島詣」春陽堂、1899(明治32)年11月23日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,004 字 · 122 页
座敷は三人が一組、姉株の芸妓が二人、これに蝶吉が、下方を持って跟いて行くのであった、といって、いつか雪の降る夜、身の毛を悚立てて梓にその頃の難苦を語ったことがある。
座敷がある、客はというと、あの土地では夜が更けてからのが多い。それという声が懸ると、手取早く二人の姉分の座敷着を、背負揚、扱帯、帯留から長襦袢の紐まで順序よく揃てちゃんと出して、自分が着換えるとその手で二人分の穿物を揃えて、三味線を――その頃腕達者な烈しい姉は、客の前で弾切ると糸を掛けてる中も間が抜けるといって、伊達に換え三味線を持ったので――四張。呼ばれた青楼の帳場まで運んでおいて、息を切って引返す、両手に下方を持って駈着ける。
それから四張の三味線を座敷に運んで、調子を合せて、差置くや否や、取って返して、自分が持の下方の調の緒を〆める時分には、二人悠々と入って来る。穿物の雪を落して、片附ける間も心が急かれ、座敷へ上るとお座附の済む頃で、膝に手を置く猶予もなく、それ下方といって責められるが、指の皮が破れてる上に冷たくッて手がかじかむ。息が切れて、もう小鼓を肩に振懸ける力もない。
これを梓に言った時、蝶吉は床から出て、友染の夜具の袖を敷いたと見ると、長襦袢のまま片膝を立てた。