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そうせきのじんぶつ
漱石の人物
和辻 哲郎
「新潮」1950(昭和25)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,438 字 · 23 页
と言ったことである。
三渓園の原邸では、招待して待ち受けてでもいたかのように、款待をうけた。漱石としては初めて逢う人ばかりであったが、まことに穏やかな、何のきしみをも感じさせない応対ぶりで、そばで見ていても気持ちがよかった。世慣れた人のようによけいなお世辞などは一つも言わなかったが、しかし好意は素直に受け容れて感謝し、感嘆すべきものは素直に感嘆し、いかにも自然な態度であった。で、文人画をいくつも見せてもらっているうちに日が暮れ、晩餐を御馳走になって帰って来たのである。
漱石は『吾輩は猫である』のなかで、金持ちの実業家やそれに近づいて行くものを痛烈にやっつけている。また西園寺首相の招待を断わって新聞をにぎわせた。そういうことから私たちは漱石が権門富貴に近づくことをいさぎよしとしない人であるように思い込んでいた。またそれが私たちにとって漱石の魅力の一つであった。しかし漱石は、いつだったかそういうことが話題になったときに、次のような意味のことを言った。相手が金持ちであるとか権力家であるとかということだけでそれに近づくのを回避するのは、まだこちらに邪心のある証拠である。