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ひのついたかかと

火のついた踵

宮本 百合子

「中央公論」中央公論社、1922(大正11)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,781 字 · 34 页

青空文庫

二人の会話をきき、歩き廻っていた英一、殆ど、顔色を変え、

英一 谷! やめろ。まるでみさ子さんを苦しめているじゃあないか!

谷  (微かな亢奮を持ち)苦しめるのじゃあない。終局に於て、持っていられる感情を、一層純粋に生かすためだ。

英一 傍で聞いては、まるで誘惑しているとほか思えやしない!

谷  ――橋詰。君の態度は、失敬ながら、崇高じゃあないよ。他人を非難することは、何も自己の優越を表しはしない。――(英一を見守り)男一人の心、で当ったらいいじゃあないか。(独白的に)君のみさ子さんに対する友情はよく判っているよ。

英一、みさ子の方をちらりと見、あわてて何か云おうとする。みさ子、二人の会話はきかず、掌に顎をのせて考えている。この時、さっと立上り、考えを変えようと、頭を振り。

みさ子 さあ……もう議論はやめ。――紅茶でも入れさせて来ましょうね。(去る)

沈黙、穏やかでない雰囲気の裡に、谷、英一、顔を見合せず、動かず、幕。

第二 庭

常緑樹の深い植込み。間を縫って、奥の方に小径があり、上手、屏風のように刈込んだ檜葉(ひば)の下には、白い石の腰架(ベンチ)が一つある。

傾いた午後の日が、穏やかに明るく、緑樹の梢、腰架の縁などを燦めかせる。