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ひのとり
火の鳥
「愛と美について」竹村書房、1939(昭和14)年5月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 页
はじめ、ゆらゆら眼ざめたときには、誰か男の腕にしっかり抱きかかえられていたように、思われる。その男の腕に力一ぱいしがみついて、わあ、わあ、声をはりあげて泣いたような、気がする。男も一緒に、たしかに、歔欷の声をもらしていた。「あなただけでも、強く生きるのだぞ。」そう言った。誰か、はっきりしない。まさか、父ではなかろう。浅草でわかれた、あの青年ではなかったかしら。とにかく、霧中の記憶にすぎない。はっきり覚醒して、みると、病院の中である。「あなただけでも、強く生きるのだぞ。」その声が、ふと耳によみがえって来て、ああ、あの人は死んだのだ、と冷くひとり首肯した。おのれの生涯の不幸が、相かわらず鉄のようにぶあいそに膠着している状態を目撃して、あたしは、いつも、こうなんだ、と自分ながら気味悪いほどに落ちついた。
ドアの外で正服の警官がふたり見張りしていることをやがて知った。どうするつもりだろう。忌わしい予感を、ひやと覚えたとき、どやどやと背広服着た紳士が六人、さちよの病室へはいって来た。
「須々木が、ホテルで電話をかけたそうだね。」
「ええ。」あわれに微笑んで答えた。