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ひのとり

火の鳥

太宰 治

「愛と美について」竹村書房、1939(昭和14)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 页

青空文庫

どんなことがあっても離れない。」

「よせやい。」助七は、めずらしくきびしい顔つきで、そう言った。「おれは、それほどばかじゃない。」つと立って、青年のあとを追った。

「君、君。」新富座のまえで、やっと追いついた。「話したいことがあるのだがねえ。」

青年は、振りかえって、

「僕は、あなたを憎んでいません。好きです。」

「まあ、そう言うな。」にやにやして言ったのであるが、青年の、街路樹の下にすらと立っている絵のように美しい姿を見て、流石にぐっと真面目になった。いい男だなあ、と思った。「すこし、君に、話したいことがあるのだけれど、なに、ちょっとでいいのです。つき合って呉れませんか。おれだって、――」言い澱んで、「君を好きです。」

三好野へはいった。

「須々木乙彦、というのは、あなたの親戚なんですってね?」あなた、といったり、君といったり、助七は、秩序がなかった。

「いとこですが。」青年は、熱い牛乳を啜っていた。朝から、何もたべていなかった。

「どんな男です。」真剣だった。

「僕の、僕たちの、――」青年は、どもった。

「英雄ですか?」助七は、苦笑した。

「いいえ。愛人です。いのちの糧です。