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ひのとり

火の鳥

太宰 治

「愛と美について」竹村書房、1939(昭和14)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 页

青空文庫

学問している。僕は、それは、あのひとのために、いいことだと思っている。あのひとに在るのは、氾濫している感受性だけだ。そいつを整理し、統一して、行為に移すのには、僕は、やっぱり教養が、必要だと思う。叡智が必要だと思う。山中の湖水のように冷く曇りない一点の叡智が必要だと思う。あのひとには、それがないから、いつも行為がめちゃめちゃだ。たとえば、君のような男にみこまれて、それで身動きができずに、――」

「恥ずかしくないかね。」助七は、せせら笑った。「けさから考えに考えて暗記して来たような、せりふを言うなよ。学問? 教養? 恥ずかしくないかね。」

三木は、どきっとした。われにもあらず、頬がほてった。こいつ、なんでも知っている。「不愉快な野郎だ。よし、相手になってやる。僕は、君みたいな奴は、感覚的に憎悪する。宿命的に反撥する。しかし、最後に聞くが、君は、さちよを、どうするつもりだ。」煙草の火は消えていた。消えているその煙草を、すぱすぱ吸って、指はぶるぶる震えていた。

「どうするも、こうするも無いよ。」こんどは、助七のほうが、かえって落ちついた。「いまに居どころをつきとめて、おれは、おれの仕方で大事にするんだ。