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ひのとり

火の鳥

太宰 治

「愛と美について」竹村書房、1939(昭和14)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 页

青空文庫

「どうせ、休んで来たんです。」

三人で、ホテルを出て、自動車を拾い、浅草。レヴュウを見た。乙彦は、少し離れて坐っていた。

「ねえ、」さちよは、青年に囁く。「あのひと、いつでも、あんなに無口なの?」

青年は、快活に笑った。「いや、きょうは特別のようです。」

「でも、あたし、好きよ。」

青年は、頬をあからめた。

「小説家?」

「いや。」

「画家?」

「いや。」

「そう。」さちよは、何かひとりでうなずいた。赤い襟巻を掻き合せて、顎をうずめた。

レヴュウを見て、それから、外を歩いて、三人、とりやへはいった。静かな座敷で、卓をかこみ、お酒をのんだ。三人、血をわけたきょうだいのようであった。

「しばらく旅行に出るからね、」乙彦は、青年を相手に、さちよが、おや、と思ったほどやさしい口調で言っていた。「もう、僕に甘えちゃ、いけないよ。君は、出世しなければいけない男だ。親孝行は、それだけで、生きることの立派な目的になる。人間なんて、そんなにたくさん、あれもこれも、できるものじゃないのだ。しのんで、しのんで、つつましくやってさえ行けば、渡る世間に鬼はない。それは、信じなければ、いけないよ。