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ひのとり

火の鳥

太宰 治

「愛と美について」竹村書房、1939(昭和14)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 页

青空文庫

賭けてもいい。高野幸代は、失敗する。いまのままですすめば、どん底に蹴落される。火を見るよりも、明らかだ。世の中は、つらいのだ。きびしいのだ。一日、一日、僕には、いまのこの世の中の苛烈が、身にしみる。みじんも、でたらめを許さない。お互い、鵜の目、鷹の目だ。いやなことだ。いやなことだが、仕方がない。」

「負けたのよ。あなたは、負けたのよ。」かん高く叫んで、多少、呂律がまわらなかった。よろめいて、耳をふさぎ、「ああ、聞きたくない、聞きたくない。あなたまで、そんな、情ないことおっしゃる。ずるい、ずるい。意気地がない。臆病だ。負け惜しみだ。ああ、もう、理屈は、いやいや。世の中の人たちは、みんな優しい。みんな手助けして呉れる。冷く、むごいのは、あなたたちだけだ。どん底に蹴落すのは、あなたたちだ。負けても、嘘ついて気取っている男だけが、ひとのせっかくの努力を、せせら笑って蹴落すのだ。あなたは、いけない。あなたは、これから、さちよに触っては、いけない。一指もふれては、いけない。なんて、嘘なのよ。あたしは、とてもリアリスト。知っているのよ。あなたの言うこと、わかっているのよ。