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てん
点
小川 未明
「新天地」1909(明治42)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,063 字 · 17 页
いつしか四時は鳴った。
子供は、尚お熱心に口のうちで数をかぞえながら、点を書き付けている。翁はやはり教壇の椅子に腰をかけたまま俯向して、両手を額にあてて瞑想に耽っていた。
時計の針は四時三十分を指した。
冬の日は暮れるに早い。この時は全く室の裡は薄暗くなった。――子供はちょうど三万六千点を黒板に書き終えたのである。
「先生書きました。」といって、子供は白墨を握ってベンチに立ったまま翁を顧みた。翁は立上って黒板を睨んで、ああ、それでよい。一日がこの点の一つだ。而してお前はまだこの他に幾万の点を打つことも出来るし、数のあることも知っているだろう。けれど畢竟今迄の人間の経験した数は三万に満たないのである。今いった「人生」というものは無数にある点の中の三万六千に過ぎないものである。――きっとこの点の意味を悟る日が来るのだ――。
その後翁は、飄然としてこの教会堂を去って何処へ行ったか姿を隠してしまった。今でも、この蔦の絡んだ教会堂は、その儘になって建っている。
もう、壁は落ち、瓦は破れて、扉は壊れて修繕するものがない。今では、一人の婆さんが留守居になって住んでいる。