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てん
点
小川 未明
「新天地」1909(明治42)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,063 字 · 17 页
町の子供には毎夜六時から八時頃まで、特に日曜の時には午後の二時から六時までという風に算術の稽古を授けていた。それで信徒でなくても、町の子供等はこの教会に出入して翁をば算術の先生! 先生! と呼んでいた。処からしていつしかこの翁をば誰れ言うとなく計算翁と呼ぶに至った。
翁は、半白の髪の延びた頭を抱えて、教壇のテーブルに向って、+、-、×の講義をやる。時にはその物憂そうな皺の寄った顔を上げて、眼の前のベンチに居並んだ子供に対って哲学や、神話の講義なども分り易いように物語ることがある。翁の半生を知る人は稀であった。旅の人である。この教会の牧師になって来てから、はや三年となった。それ以前に彼の妻たるべき人は死んだと見えて、此処に来た時は一人であった。この蔦の絡んだ教会堂に住んで、別室には家なしの労働者夫婦を同居させて居た。彼が教壇の上に立って、讃美歌を捧げる時のその声は、高い、太い声だけれど、また傷しい、悲みを帯んだ何処やら人に涙を催させるような処があった。――或人は、計算翁をば失恋の人だといった者もある。
翁は決して、饒舌愛嬌のある人でない。極く沈んだ憂えを帯んだ額に八の字を寄せて、蓬のように蓬々とした半白の頭を両手でむしるように悶えることもあるかと思えば、また快活に語って恰かも神々しい天の光を認めたように浮き立つ