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えぼしだけのちょうじょう

烏帽子岳の頂上

窪田 空穂

「早稻田文學 第二百三號」早稻田文學社、1922(大正11)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,432 字 · 15 页

青空文庫

堀君も、小林君と同じように立派な登山家であった。私はさっき見た影のことを堀君に話した。

「それが本当の御来迎ってものだそうです。めいめい自分の影を見るだけで、側にいても人の影は見えないんですってね。」

堀君はそう云って説明してくれた。

躊躇していた私は、この人たちが来たので、烏帽子岩へと向った。

岩の肩までの登りが困難であった。木立にさえぎられている岩の面は、殆ど直立していた。怪我をしないように注意して登ってゆくと、私は最後になってしまって、堀君の姿は見えなくなった。

肩まで這い上ると、岩のそちらの面は、崩れになって、深さはすぐには測り難いものに見えた。烏帽子形の一つ岩は、その肩の上に、かなりな高さをもって立っているのである。

「あちら側から見ると、この岩が『槍の穂』のように見えます。」

案内はそう云って、四つ這いになって、攀じ登ってゆく。

小林君は、這うことは出来なかった。鞍に跨った形になって、手と尻でいざりながら進んだ。

私は小林君のするようにする外はなかった。

案内は或点に立ちあがって、私たちのいざるのを見ていた。いざりながら案内を見あげると、その赤黒い顔は、真っ青な空のなかに浮んでいた。