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えぼしだけのちょうじょう

烏帽子岳の頂上

窪田 空穂

「早稻田文學 第二百三號」早稻田文學社、1922(大正11)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,432 字 · 15 页

青空文庫

そこをいざり尽すと、私たちは崩れの上に直立している、滑らかな花崗岩の面を伝わらなければならなくなった。

「ここをどうして伝うだろう?」と私は怪しんだ。

先に立った案内は、岩の面にからだを擦りつけて、両手を一ぱいに拡げて岩に抱きつくようにした。岩の面は広くて、拡げた手も向うへは廻らない。又、岩の面は滑らかで、指の懸かるほどの突起も窪みもない。足はと見ると、そこには、岩の面に一と筋の筋がついている。その筋の上へ、屈めた足の指を吸いつかせつついざらせつつ進むのであった。案内のからだの下には、足の下には、深い深い崖が空に向って拡がっている。

案内が伝わってしまうと、小林君が伝わって行った。

私も伝わらなくてはならなくなった。私は、今眼に見た光景と、心に感じた不安から離れようと思った。草鞋をその筋の上に踏みかけ、両手を拡げて岩の面に抱きついた時、私は眼を、その向った一点に注いで、それより外は何もない場所と思おうとした。私の下腹には力がはいって来た。私の足の爪先は、静かに、伸び屈みしつつ進んで行った。それと共に、岩に擦りつけていた腹もいざって行った。

手の指が岩の曲り目を捉えた。