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えぼしだけのちょうじょう
烏帽子岳の頂上
窪田 空穂
「早稻田文學 第二百三號」早稻田文學社、1922(大正11)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,432 字 · 15 页
今も、これから出懸けるまでには、少くとも二時間くらいの時間はあるはずである。
「何をしよう、この自分の自由に楽しめる二時間の時間を。」
しかしそれは、実は考えて見るまでもなくきまっていることであった。昨日の夕方、平地から初めてこの山の乗越に登った時、その快さに乗せられて、私は疲れてはいるが一と思いに烏帽子岩まで行って見ようと思った。そして案内に相談すると、「朝になすったがいいでしょう、」と止められたのであった。今朝はどうでもその烏帽子岩を見なくてはならない。
「ここからは見えないが、見当は付いている。一人で行ける。いや、一人でゆっくり行って来よう。」
私は焚火から離れた。すると仲間の本居君が、すぐ向うの小高い傾斜の上に立って、あちこちと見廻しているのを認めた。私がそちらへ行くと、本居君も歩み寄って来た。
「昨夜は眠れたかい?」
「いや、眠れませんでね、」と本居君は、癖の、眼に陰鬱な色を浮べて答えた。
眠るということは、私たちにとっても大事件であるが、私よりも山馴れない、この年下の友だちに取っては一層の大事件に感じられた。
「今朝は早く起きてしまったが、いや、いい月でしたよ。