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ほのおのなかにうたう

焔の中に歌う

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1928(昭和3)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,476 字 · 27 页

青空文庫

男という男を迷わして、いざという時になると、残酷に放り出すといった様な話をネ、全くその通りよ。私は随分いろんな男を迷わしたワ、私の為に身を亡ぼした男が、五人、十人、いえいえそんな事ではありません、けれども誰も私というものを手に入れた男が無かったでしょう。世の中の人達は『あの女は利口だ、結婚すれば人気が落ちるにきまって居るから』とこう言ったでしょう。それがまあ世間並の観察ネ。けれども、私はそうじゃないの。歌い手に不似合な、費っても費い切れない程の富もあるし、口幅ったい様だが、世界的な名声とやらもあります。この上私は何んの人気を望んで居るでしょう」

もう夜もいいかげん更けました。深井少年には帰らなければならない時刻が迫って居るのですが、歌姫――悩める駒鳥絹枝――は、深井少年を長椅子の上へ引き据えて、どうしても帰そうとはしません。

「まあ、いいワ、そんなにもじもじしなくとも、泊っていらっしゃいよ。あなたはどうせ下宿住いでしょう、宿へは電話かなんかかけさせるワ、大丈夫、取って食いもどうもしませんから」

ニッコリ、それでも苦悩を刻んだ顔に、ほのか乍ら微笑が走ります。