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むげつものがたり
無月物語
久生 十蘭
「オール讀物」1950(昭和25)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,485 字 · 36 页
北ノ方は毎日のように白女に文を持たしておよこしになり、また見事な手箱を保平殿へおつかわしになりました」
「もうたくさんだ」
泰文は天羽を括って下屋の奥へ放りこむと、こんどは保平の僕を吊しあげた。
「保平と朝霞のことは、お前が見てよく知っているはずだと天羽がいった。お前はいったいなにをしてくれた、夜の明けるまで二人の傍にいて」
僕は知らぬ存ぜぬといっていたが、腕の関節が脱臼しかけたので、しどろもどろに叫びだした。
「なるほど、そういう不都合な時刻に北ノ坪へ入りました。けれども、お二人の傍にいたわけではありません。じつはとなりの曹司で、白女と遊んでおりました」
「言わぬなら、もう一度吊しあげるだけのことだ」
僕は震えだした。
「もうお吊しになるには及びません、なにもかも申します」
それで白女が呼びこまれた。
「お前がねんごろにした女房がここにいる。この女の前で、あったことをみな言ってみろ」
「申します。私はお二人の前で、さる実景を演じる役をひきうけました。ここにいるこのひとが、そうするように強請したからです。最初に保平さまが下着をとられ、それから奥方が下紐を解かれました」