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むもうだん

無毛談

坂口 安吾

――横山泰三にさゝぐ――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,319 字 · 17 页

青空文庫

若年にしてハゲると、オヤ、ハゲましたネ、と誰しも一度は言うものである。百人の知人があれば、百ぺん言われるもので、もう、バカ云え、とは言うわけに行かない。非常に卑屈になるもので、ニヤニヤするのもミジメであるし、ウム、ハゲタ、見事にハゲました、と云って肩をそびやかすのは、なお悲しい。要するに、どんな応対の仕様もない。どうやってみてもミジメで哀れであるから、いっそ怒るのが一番立派のようであるが、ハゲましたネ、と云われたるカドにより怒って絶交するというのも、あさましい話である。

男の方はまだいゝのだが、アラ、おハゲになってるわネ、などゝ女の子に言われるのは、五臓六腑に、ひゞく。だから、女の子のいる飲み屋へ行くと、

「キミ、キミ、僕はもうハゲました。ホラ、この通り」

挨拶の代りに頭をだしてみせる。アラ、ホント、ずいぶんハゲたのね。ウム、ハゲちゃった、アハハハハ、などゝバカみたい。これを逆に女の方からやられると、ベソをかきそうな顔になる始末であるから、仕方がない。無事関門を通過して、ホッとしながら酒を飲みだす段どりとなる。

もう、ちかごろはハゲぐらいの問題じゃなく、もう、お年ねえ、などゝ決定的なことを言われるようになったから、ハゲもなんでもなくなってしまった。