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むほうもの
無法者
豊島 与志雄
「中央公論 文芸特集」1951(昭和26)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,837 字 · 24 页
ふとした恋愛関係が複雑にもつれてきて、訴訟沙汰にまでなりかけたのを、彼女の斡旋で無事に解消したのだった。それ以来、彼女にはへんに頭が上らないのだ。
「ただ今、あなたのお噂をしていたところなんですの。」と彼女は言った。
額の上に捲毛を縮らし、下頬に贅肉がぼってりしていて、小さな眼がちらちら光っていた。志村が煙草のケースを差出すと、彼女は器用に一本ぬき取った。
「あちらへ、広間の方へ、おいでになりませんか。」
「もうすこし、酔いをさましてからにしましょう。」
それでも、彼女の前には、紅茶とカクテルとが並んでおり、彼女はカクテル・グラスの方を取上げて、唇の横っちょですすった。
女中が通りかかると、彼女は志村へも、カクテルを持って来てくれるよう、しかも二杯、頼んだ。
煙草の煙ごしに、彼女は志村の顔をしげしげ眺めた。頬笑んでるのか怒ってるのか分らない表情だった。
「あなた、この頃、ずいぶんお盛んなようですわね。」
「どうしまして。すっかり悄気てるんですよ。」
志村は笑みを浮べた。
「お盛んなのは結構ですけれど、あまり、ひとをおからかいなすってはいけませんよ。」
志村は笑みを深めて、あの一件かと思っていると、果してその通りだった。