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つばくろ(つばくろ)
燕(つばくろ)
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页
ことが、あなたに申し訳ないように思えたからですわ」
「どうしてそうでないわけがありますか」と又左衛門は湖を眺めたままで云った、「――新原とあなたとは、紛れもなく仕合せな夫婦だったのですよ」
こずえは又左衛門の横顔を、きつい眼つきで凝視した。
「もういちど申上げますけれど」とこずえは云った、「あなたは本当にお気の毒な方でございますわ」
又左衛門は黙って会釈した。こずえは眼のまわりをぬぐい、鼻を押えてから、別れを告げて立ちあがった。――又左衛門は内玄関まで送ってゆき、こずえを待っていた侍女といっしょに、敷石道を門のほうへ去るまで、内玄関に立って見送っていた。
元の広間へ戻ると、三人はもう茶を啜ってい、又左衛門の膳部だけが据えてあった。又左衛門はいよを呼んで、その膳部をさげさせ、自分にも茶を淹れさせた。
「そこがどうもわからない」と梶本が能弁に話していた、「あのころわれわれは野心に燃えていた、それぞれ目的は違っても、出世をし名をあげ、青史に残るような仕事をしようと誓った、ここで幾たびも誓いあった、覚えているだろう、庄野」
彼は庄野を見、渡貫を見、又左衛門を見た。