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ばくやくのはなかご
爆薬の花籠
海野 十三
「少女倶楽部」1940(昭和15)年6月~1941(昭和16)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 101,908 字 · 204 页
祖国近し
房枝は、三等船室の丸窓に、顔をおしあてて、左へ左へと走りさる大波のうねりを、ぼんやりと、ながめていた。
波の背に、さっきまでは、入日の残光がきらきらとうつくしくかがやいていたが、今はもう空も雲も海も、鼠色の一色にぬりつぶされてしまった。
「ああ」
房枝は、ため息をした。つめたい丸窓のガラスが、房枝の息でぼーっと白くくもった。
なぜか、房枝は、しずかな夕暮の空を、ひとりぼっちで眺めるのがたまらなく好きだ。そしていつも心ぼそく吐息をついてしまうのである。
彼女は、両親の顔も知らない曲馬団の一少女だった。
彼女が、今抱えられているミマツ曲馬団は主に、外国をうってまわるのが、本筋だった。一年も二年も、ときによると三年も、外国の町々を、うってまわる。そうかと思うと、急に内地へまいもどって「新帰朝」を看板に、同胞のお客さまの前に立つこともあった。こんどは少しわけがあってわずか半年ぶりの、あわただしい帰朝だった。そうでなければ、ミマツ曲馬団は、まだまだメキシコの町々を、鉦と笛とで、にぎやかにうちまわっていたことだろう。
房枝が、曲馬団の一行とともに、のりこんでいたこの雷洋丸は、もうあと一日とすこしで、なつかしい祖国の港、横浜に入る予定だった。