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はちゅうかんじけん
爬虫館事件
海野 十三
「新青年」1932(昭和7)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,914 字 · 38 页
帆村は折角登りつめた断崖から、突っ離されたように思った。穴があれば入りたいとは、この場のことだろう。彼は北外畜養員に挨拶をして、遁げるように室を出た。
彼は人に姿を見られるのも厭うように、スタスタと足早に立ち去った。園内の反対の側に遺されたる藤堂家の墓所があった。そこは鬱蒼たる森林に囲まれ、厚い苔のむした真に静かな場所だった。彼はそこまで行くと、園内の賑かさを背後にして、塗りつぶしたような常緑樹の繁みに対して腰を下した。
「ああ、何もかも無くなった!」
帆村は一本の煙草をつまむと、火を点けて歎息した。
「一体、何が残っているだろう」
最初から一つ一つ思いかえしてゆく裡に、特に気のついたことが二つあった。一つは園長がいつも呑み仲間としてブラリと訪ねて行った古き戦友半崎甲平に会うことだった。そうすれば、まだ知られていない園長の半面生活が曝露するかも知れない。もう一つはどうしても事件に関係があるらしい爬虫館を、徹底的に捜索しなおすことだった。ことに開けると爬虫たちの生命を脅すことになるという話のあった鴨田研究員苦心の三本のタンクみたいなものも、此際どうしても開けてみなければ済まされなかった。