轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ちち

父

矢田 津世子

「日暦」1935(昭和10)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,168 字 · 38 页

青空文庫

と誰れにともなく云った。声がへんに潤んできたようなのでそっと顔をみやると筋ばった手が眼のあたりを覆うている。何んと云うたものか、と紀久子はちょっと惑った。そして「それは母様の思いすごしよ」と、つい慰めるように云ってから、これではいけない、と気付いた。母が待っているのは別の返事である。それが分ると口をきくのが億劫になってきた。いつものように母の枕元に坐り徐かに髪を梳いてやると、やがて顔から手を落して静かな寝息をたてはじめた。眼頭の窪みに溜った白く光る涙の玉をみていると何んとも云えない程哀しくなってくる。泣きたいようである。けれど、その感動には何やら乾いたかさかさしたものが交っていて、それが紀久子の泣きたい心を阻止している。そして、白く光る母の涙をじっと視詰めながら、その涙を羨やましい、と思った。

父と姉の結びつきを知っている母が、姉とおきえさんの交渉に感付かないはずはなかった。姉が隠しごとをしている。その不満がしぜん飯尾さんへ洩らされる。姉が皈ったあとなど、母と飯尾さんは火鉢ごしに額をつきあわせるようにしてひそひそ話しあっていることが度々であった。