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ちち
父
矢田 津世子
「日暦」1935(昭和10)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,168 字 · 38 页
寝乱れてほつれた髪が白い頸すじへまつわり、どうしたのか顔は少しはれぼったくみえた。裾を慌ててかき合せるようにして紀久子へちょっとお辞儀をするような恰好で厠へ入っていった。不思議に眼だけが吸われるようにおきえさんの色彩についていって厠の戸口で止まると、そこから離れの部屋を窺うように、いっ時息をひそめた。微かに父の寝息が洩れてくるように思われた。だが、もしかしたらそれは自分の呼吸の激しさかもしれない。冷めたくなった足裏に促されて紀久子は自分の部屋へ入った。ふと自分がこの間まで寝間にしていたその部屋に父とおきえがやすんでいる。――妙にそれへこだわって、どうしてもねむれない。想像が、鉛のように鈍った頭の底からつぎつぎと現われてくる。そして、この想像の跳梁に身をまかせている自分を忌々しいと思いながらも、どうしようもなくそこから抜け出せないのだった。
その翌朝はへんに父を避けたい気がした。それでいて、まともからずけずけと眺めてやりたい気もした。いつものように父の外出の支度をしているところへ朝風呂をすませた父がきて、「新聞は?」ときいた。舌がこわばって咄嗟には口がきけず、黙って父をみたままでいると、