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かたおなみ
片男波
小栗 風葉
「文藝倶樂部 第二巻第九編臨時増刊 海嘯義捐小説」博文館、1896(明治29)年7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,792 字 · 6 页
「お前は何も知るまいが、俺は毎日ここへ来て立っているぜ。真の事だ、毎日来て立っている!」
「何故さ。」
とお照は訝しげに問返しぬ。
「何故って、ここはお前……お前が何時か腓を返して沈懸った時に、俺がその柔かい真白な体を引抱いて助揚げたとこだ。その時お前が一生この恩は忘れないって、片息になって、しっかり俺の頸へしがみついたあの時から、俺は、俺はお前を……。」
と言さして、しばし辞は途切れしが、
「真によ、女てえものはどこまで気強いか知れねえものだ!」
と仙太は投出すように言いはなてり。聞くとひとしくお照は思わず後退りて、朧なる月影にじっと男の顔を透見つつ。
「仙太様!」
とばかりひたと寄添いしが、にわかに心着きて、我が家の方を振返りつ、
「だって、私は源様という歴とした亭主があるんだもの、よしんばどうしようたってしょうがないじゃないか。」
「ないかあるかそんな事は俺の知った事じゃねえ。俺は唯お前を思って思って、俺の思がお前に届くまで思凝めようと思って、思凝に思凝めているのだけれど、それがお前に届かねえとこを見りゃ、まだ俺の思いようが足りねえのかも知れねえ。お前が源様を思うその倍も、俺がお前を思ったら、なんぼ亭主持だって、ちっとは俺の切ない思も酌んでくれそうなものだけれど、それがないとこを見ると、俺のお前を思うよりか、