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ぎゅうにゅうとうま
牛乳と馬
豊島 与志雄
「思索」1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,248 字 · 25 页
見ると、上半身裸体の男が、大きな馬盥の水で馬を洗っていた。小野田さんがいつも乗ってる栗毛の馬だ。わたしは黙ったまま佇んだ。男は馬の向う側に回った。顔を見合せると、それが小野田さんだった。
「ほう、秋子さんか。どうしたんです。」
わたしは恥しくなった。相手は半裸体なのだ。ただ微笑した。
「これは思いがけなかった。よく来ましたね。」
「ちょっと、通りかかったものですから……。」出たらめを言った。
「覗いてみたんですか。この通り、馬丁修業です。待って下さい、すぐ済むから。」
小野田さんは半裸体を少しも気にしていないらしいので、わたしも気にならなくなって、近くへ行った。それでも、白い胸の真中に黒い長い毛が粗らに生えてるのが、眼について、わたしは馬の方ばかり見た。
盥の水を馬の背や腹や足にかけて、大きなブラシでこするのである。栗色の毛並がつやつやと輝やくようで、見違えるように美しくなってゆく。馬は木に繋がれたまま、上唇をあげ鼻に皺よせ、ふふふと笑った。
「こいつ、あなたを覚えていて、笑ってますよ。なんしろ、駆けてる馬の鼻っ先に飛び出してくる、勇敢なお嬢さんだからな。