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ぎゅうにゅうとうま

牛乳と馬

豊島 与志雄

「思索」1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,248 字 · 25 页

青空文庫

」

どうも、いけない、とわたしは思った。気を許しては負けだ。大きく息をして言った。

「ただ、通りがかりにお寄りしただけですから、ゆっくりお洗い下さい。お家にはあがっておられませんの、あなたとおんなじに。」

小野田さんはじろりとわたしを見て、ちょっと小首をかしげた。それから笑った。

「家の中より外の方がいいですとも。殊に僕なんか、あちらの洋間には住まずに、こちらに居候して、馬と同居だから。」

小野田さんは丹念に馬を洗いながら、馬のことを話した。馬は犬よりも猫よりも、もっと人間になずみ、人間の気持ちが分り、人間に忠実であると、戦地の実例など挙げた。

「でも、匂いがしますでしょう。」とわたしは言ってやった。「こないだの牛乳も、馬くさかったようですの。」

「ほう、それは素晴らしい。そんな牛乳なら、僕も御馳走になりたかった。」

「馬くさい牛乳を飲んでいますと、馬の夢をよく見ます。眼がさめていても、馬の駆ける音が聞えたり、馬の鼻息が聞えたり、馬が迎えに来たり……。」

小野田さんが馬の背に手を休めて、わたしの方をじっと見ているので、わたしは言いやめて、唇をかんだ。どうしてそんなことを言い出したのか、自分でもふしぎだった。