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ぎゅうにゅうとうま
牛乳と馬
豊島 与志雄
「思索」1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,248 字 · 25 页
振り返ると、もう馬は橋にさしかかり、わたしの方へ真直に向ってくる。よける隙もない。あ、と声を出すと同時に息をつめ、橋の反対側へ飛びのいたが、馬はそっちへ来るし、わたしはまたこちらへ飛びのいたが、危い、と思うと共にまたあちらへ飛びのいた。とたんに、真黒な風のようなものが身を掠め、わたしは欄干にすがりついて屈みこんだ。
つぶっていた眼を開くと、橋を渡りきったすぐそこに、馬は止っていて、男のひとが馬から降り、手綱を引っぱって戻ってきた。わたしは少し極りわるく、立ち上って、無意味にお時儀をした。
「怪我はなかったでしょうね。」
わたしは無言で頭を振った。
「動かないでおればいいんですよ。いきなり、道の真中に飛び出してくるもんだから、こっちでびっくりしちゃった。」
ずいぶんぞんざいな言葉つきだ。
「あ、こいつあいけない。」
言われてからわたしも気づいた。用心のため、橋の欄干から少し離して、地面に立てて置いといた牛乳の一升瓶が、馬に蹴られたのであろう、二つに割れて、地面に白く牛乳が流れている。そのひとはすぐ、藁編みの瓶容れを拾いあげ、じっと眺めて、残ってる瓶の下部をつまみ取り、乱暴に川の中に投り込み、地面の瓶の破片も、足先で乱暴に川に蹴込んで、それから瓶容れを私の手に返した。