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ぎゅうにゅうとうま

牛乳と馬

豊島 与志雄

「思索」1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,248 字 · 25 页

青空文庫

「粗相しちゃった。すみません。」

「いいえ、宜しいんですの。」

そのひとも、馬も、わたしの方を見ていた。わたしも相手を見た。

男の年齢はわたしには見当がつきかねるけれど、三十前後だろうか、鳥打帽に薄羅紗のジャンパー、乗馬ズボンに赤の長靴、全体が茶色がかった色調で、きりっとした身なりである。馬の年齢もわたしには見当がつきかねるけれど、まだ若いらしく、でもサラ系ではなく、ありふれたつまらぬもので、ただ、鞍だけは立派である。

「牛乳は、どこで買ったんですか。」

隠すほどのことでもないから、わたしはありのまま答えた。

「ほう、あすこの茶店にたのんで……。」

なぜか、まじまじとわたしの顔を見るので、わたしは歩き出そうとした。

「ちょっとお待ちなさい。馬で一駆け、代りを取って来てあげましょう。茶店になければ、牧場から取寄せて貰います。僕の粗相だから、賠償さして下さい。ここで待っていて下さいよ。決して怪しい者じゃありません。小野田達夫……。」ポケットを探った。「名刺をいま持っていませんが、小野田達夫という者です。この辺で待っていて下さい。すぐ戻ってきます。」

藁編みの瓶容れをわたしの手から引ったくって、彼は馬に飛び乗ると、振り向きもせず遠ざかっていった。