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うし

牛

坂口 安吾

「文藝春秋 第三一巻第五号」1953(昭和28)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,971 字 · 25 页

青空文庫

わけが分らなくて沈黙していると、女が云った。

「ここへ手をだして」

「どこ?」

「ここ」

女は格子をカチカチ叩いて場所を知らせた。

「手がでるもんか。指が一本通るだけだ」

「格子のところへ手をひらいて当てといて下さればいいのよ。いい?」

「いい」

「ハイ」

格子の隙間から何かがポロリと手に落ちた。場所がややずれていたので、手に当って下へ落ちた。光也はそれを探して拾った。

「これ、何?」

「キャラメル。好き?」

「好きだ」

「じゃア、手をだして」

女は指でキャラメルを押しこんだ。そこにちょうど光也の掌があった。すると女はその掌に指を当てたまま、しばらく引ッこめようとしなかった。

氷のように冷い指であった。女の指と知らなければ、ゾッとして気を失うかも知れないような薄気味わるい冷めたさだった。

しかし、女がこんな冷い指をしているのは親切のせいだと思ったので、彼ははじめて女に親しみを覚えた。

女は無言で一ツずつキャラメルを押しこんだ。そのたびに、ちょッとの間、指を掌に押し当てた。

自然に光也は数を算えていた。キャラメルは十を越した。十一、十二。

「大箱だな」

感謝の気持で、彼は女に云った。