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うし
牛
「文藝春秋 第三一巻第五号」1953(昭和28)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,971 字 · 25 页
女はそれに勢を得たのか、益々せッせと無言でキャラメルを押しこんだ。彼が二十かぞえたとき、女が溜息をもらしたので、彼は女に悪くなった。
「君は食べたくないのか」
「…………」
「すこし返そうか」
「なぜ」
「二十そっくりもらうのは悪いよ」
「かぞえていたの?」
「君が欲しければ半分返すぜ」
「いいわよ」
「オレがここに居ること、どうして分った」
「村の人はみんな知ってるわ」
にがい思いがこみあげた。浮世の事情を知ることは甚だよろしくないのであった。
「もう、帰れよ。女が夜こんなところを独り歩きするのは良くないことだ」
「帰るわよ」
女は力のない返事をした。しかし、モジモジしているようであった。
「明日もキャラメル持ってきてあげるわ」
「もういいよ」
「手紙よんだ?」
「よんだ」
「おやすみ」
懐中電燈の灯がよろけながらだんだん遠のいて見えなくなった。
しかし、翌る晩、女は現れなかった。彼は自分の態度がわるかったために、女を怒らせたに相違ないことを羞じた。
あの女は、親切だ。しかし、誰だろうかと考えた。
「オレが時々ここに閉じこもって暮していると、あの女が握り飯をはこんでくれる」
それは大いに可能性のありうることだった。