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とくしゅぶらくのはんざい
特殊部落の犯罪
豊島 与志雄
「新小説」1922(大正11)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,455 字 · 15 页
踏み止って彼女等の腕に捕えられようとしても、どうしても出来なかった。彼女等は四方から追ってきたが、その肌に触ることさえ出来なかった。……彼女等の踊りは益々激しくなった。しまいに一団の竜巻みたいになって、くるくる廻りながら遠ざかっていった。彼はその後を追っかけた。赤い頬辺が笑っていた。無数の手がこちらをさし招いていた。するうちにどしりと躓き倒れた……。
眼を開くと、室の中は真暗だった。破れ雨戸の隙間から、蒼白い光りが射し込んでいた。彼はそれをじっと眺めていたが、やがて胸をわくわくさしながら起き上って、そっと雨戸を細目に開いた。ぱっと明るい月夜だった。夜鷹が鳴いて飛び過ぎた。水の無い水田の黒い地面が遠くまで連って、霜とも露とも知れないものに光っていた。と、彼は俄に首を伸して見つめた。彼方の大きな藁ぼっちの、月の光りを受けない影の所に、二人の人影がくっついて蹲っていた。彼はなお瞳を凝らした。それから、歯をむき出してにっと微笑んだ。然しその狂気じみた笑顔が静まりかけると、俄に恐ろしい形相に変った。歯をくいしばってぶるっと震えた。
彼ははっと身を引いて、それから帯をしめ直した。