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いぬがなくとガラスがこわれるか
犬がなくとガラスがこわれるか
中谷 宇吉郎
「暮しの手帖 昭和36年第3号」暮しの手帖社、1961(昭和36)年7月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,337 字 · 41 页
ビタミンAを含んだ食品は、いくらもあって、その方が安いのであるが、抽出して薬瓶に入れたものだけが効くように思って、わざわざ高いものを買ったのも、科学崇拝のせいであろう。あげくの果ては、ビタミンAの過剰症というような副産物もあった。
その後ビタミンには、ABC……と何十種類もあって、それぞれ効果がちがうことがわかったので、ビタミン流行時代にはいった。そのころまでには、この若夫人もだいぶ成人して、「ビタミンDの補給には、松茸がいいんですってね」と、さかんに松茸を食わすようになった。このけろりとしているところは、大いに科学的である。前にもいったように、私情をまじえないで、ものをものとしてみるのが、科学である。
ビタミンが流行してよろこんだのは、薬屋であった。いろいろなビタミン剤が、雨後のたけのこのように出てきて、どれもさかんに売れる。こういう、長期間つづけてのまないと、効き目のわからないものは、薬屋にとってはありがたい。なかには、ずいぶんインチキなものがあって、戦後数年のころは、市販のビタミン剤の半分以上も、ほとんど効果のないものであったという。
こういうビタミンは、全部天然の食品のなかにあるものである。