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いぬがなくとガラスがこわれるか
犬がなくとガラスがこわれるか
中谷 宇吉郎
「暮しの手帖 昭和36年第3号」暮しの手帖社、1961(昭和36)年7月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,337 字 · 41 页
その一つ一つをときあかしてゆくのが、科学の任務であるが、全部をときあかす日は、永久に来ないであろう。これは科学を軽蔑した言葉ではない。自然の神秘は無限であり、科学はあくまでもそれを追及してゆくものである、という意味で、科学をたたえる言葉である。
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ひと昔まえの教養のある若夫人のなかには、栄養学の知識を大いにふり廻された方がある。
そういうお仲間は、たいてい「色と形で食べさせる」日本料理はお気に召さず、栄養価の高い西洋料理がお好きであった。松茸の好きなご亭主が、たまには松茸くらい食わせろよなどといっても、なかなかききいれられない。「松茸なんか、カロリーはゼロよ。高いだけで、栄養価はぜんぜんないのよ」と一しゅうされてしまう。
カロリーが栄養上必要なことは、科学的に立証された事実である。松茸にカロリーが非常に少ないことも事実である。この二つの事実から、ゆえに松茸には栄養がないという結論が出てきたのは、いかにも科学的なようであるが、一番かんじんな点だけが抜けている。
ところが、そのころから、ビタミンというものが、はやり出した。はじめて理化学研究所から、ビタミンAが売り出されたころは、肺病の薬だというので、当時としてはひどく高価だったこの薬を、無理して買った人が大分あった。