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いぬのはじまり

犬のはじまり

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,886 字 · 8 页

青空文庫

と云う声がする。

私は、サビエットを卓子の上になげ出して玄関に出て見た。私も、其処のたたきにあるものを一目見ると、我知らず

「まあ、どうなすったの?」

と云った。

其処には、実に丸々と肥えた、羊のような厚い白の捲毛を持った一匹の子犬が這って居るではないか。

仔犬は、鳴きもせず、怯えた風もなく、まるで綿細工のようにすっぽり白い尾を、チぎれそうに振り廻して、彼の外套の裾に戯れて居る。

私は、庭下駄を突かけてたたきに降りた。そして

「パッピー、パッピー」

と手を出すと、黒いぬれた鼻をこすりつけて、一層盛に尾を振る。

「野良犬ではないらしいわね。どうなすったの?」

「つい其処に居たんだ。通る人だれの足許にでもついてゆきそうにして居た。ね、パプシー」

「いきなりつれていらしったの?」

「いいや、暫く話をして居た。Here, Here, Puppy, give me your hand, give me your hand. なるたけ英語で喋った方がいい。」

見ると、稍々灰色を帯びた二つの瞳は大して美麗ではないが、いかにもむくむくした体つきが何とも云えず愛らしい。頭、耳がやはり波を打ったチョコレート色の毛で被われ、鼻柱にかけて、白とぶちになって居る。