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きつね
狐
岡本 かの子
「文学界」1938(昭和13)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,039 字 · 13 页
――では、正体現すときもあると申すか。
――さあさあ、あの雑司ヶ谷でお目にかかったとき、はじめはそれほどと思いませんでしたけれど、だんだんあなたさまの仕方、なされ方、もし、真実わたくしに誑かされていられるなら、こんないじらしいことはない。したがもし万事承知の上で誑かされたふうをしていられるなら、こんな底気味悪くも頼母しいお方はない、どちらにしても、とつおいつのお慕わしさ、恋しさが募れば化狐より本性の女ごころのうぶに還り、いっそこの上は真実この身の正体をと……。
――どうしたと。
――わたくしは、もとから狐でも夫持ちでもご、ご、ございません。(泣き伏す)
――ばかな女、いや狐だな。今更、それを聞いておれが悦んだり慰んだりすると思うのか。人並の恋がしたけりゃこのわたしとて、今までに随分相手の女もなくはなかった。
――ねたましいことを仰言しゃいます。
――結ぶの恋は破れる恋ともなる。それが判り切った嫌さに、ひとりもので甘藷を噛って、炬燵へあたっている仕儀だ。狐の化けた女というなら、その実体のない美しさに賞でて、一晩位は相手になってつき合う積りだが。
――すりゃ、どうあってもわたくしの正体を知ろうとはなさりませず……。