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きつね

狐

岡本 かの子

「文学界」1938(昭和13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,039 字 · 13 页

青空文庫

女どきっとして足を引すぼめ、

――えっ。

――まあよろしい、早く行きなさい。

――では、お二方、ご免遊ばせ。

女去る

――呆れたな君は。狐を一晩引張り込む約束をするなんて、物好きにも程がある。

――まあ、いいから任して置け。ときに暁方近くなって、だいぶ寒くなった。落葉でも掻き集めて来い。焚火してあたろう。

三

再び鈴懸の仮寓。夜更け、燈火の灯影に鈴懸炬燵にあたって、仮寝している。霰の音。戸を叩く音。

――誰だ戸を叩くのは。

――あの……ちょっと、お開け下さいまし。

――若い女の声だな。

――人に見られては難儀いたします。早く開けて入れて下さいまし。――もし。

――誰だか判らんものを、そう無闇に入れられるか。

――おや、もうお忘れでございましたか――あの――雑司ヶ谷でお目にかかったおんな――いえ――女狐でございます。夫を助けていただいたお礼に参りました。

――そうそう。そんなことがあったっけ、なるほど約束したな。ちょうど霰も降る夜だ。

――早くお入れ下さいまし。

――よしよし、いま待て。

――いくら畜生でも、まことのこころ、恋ごころ、化けていられぬ場合もございます。