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きつね
狐
岡本 かの子
「文学界」1938(昭和13)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,039 字 · 13 页
あれば、大概、無理な願かけの連中ぐらいだ。
――もしもし。
――呼んだのは、君か、すこぶる美女だな。
――何の用ですか。
女あたりを見廻して
――誰も聞いてるものは居ないでしょうか。少し内密咄しなのですが。
――見らるる通り、あたりに人影とてはない。在るものは欅並木に、冬の月、仕舞って帰った茶屋の婆が、仕舞い忘れた土産の木菟。形は生ものでも実は束ねた苅萱。これなら耳があったとて大事なかろう。
――では申し上げます。わたしは人間ではございません。狐でございます。
――さては評判のこの界隈の狐だな。
――狐、結構、だがめったに正体を現わすな。いつまでもその美女のままでいて呉れ。
――お恥かしうございます。
――はにかむところは一入艶だ。
――おれは、君ほど観照してる余裕はない。女狐さん用ならさっさと話して呉れ。
――では申し上げます。お頼みがあるのでございますが……。
――ちょっと待った。あらかじめ聞いて置くのだが、その頼みの筋というのは色っぽいことか、それとも野暮なことか。
――野暮なことでございます。
――そうか。そいつはどうも、気がないな。
――いえ、場合によっては、色っぽくならないものでもございません。