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きつね

狐

岡本 かの子

「文学界」1938(昭和13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,039 字 · 13 页

青空文庫

――ご冗談仰言っては困ります。生きとし生けるものの嘆きに人、けだものの変りがございましょうか。

――だったら、一つ試しに詳しく聞かして呉れ給え、参考になる。そうなあ、狐には通力というものがあるそうだから、一つその嘆きを形の振りごとにして示して貰い度い。すりゃわたしたちに取っても稀代の見聞さ。

――拙い手振り、恥しながら、夫の身のため……。

――二見氏、その酒筒を出せ、この床几に腰かけて一ぱいやりながら、見物しよう。

――ばかばかしい。それこそわざと狐に化かされることの深味へ嵌めて呉れと注文するようなものだ。気がついて見れば、あしたの朝は小川の行水にでもつかっているぞ。

――まあ任して置け、こっちへ来い。

――では……。

女、唄い乍ら舞う

唄※(歌記号、1-3-28)

元よりこの身は畜生の。人にはあらぬ悲しさの。添うに添われぬ夫婦の道よ。迷ぞ深き身の上の。思いの種とやなりやせん。いとど心はうば玉の夜の寝伏しの手枕や手枕や

――やんややんや、この頃市村座でやっている「振袖信田妻」二番目の所作唄だな。

――いくら化されぬよう要心していても、只今の踊りにはついうっとり見惚れてしまった。