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きつね
狐
岡本 かの子
「文学界」1938(昭和13)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,039 字 · 13 页
――女狐さん、まあ、こっちへ来て一ぱいやらぬか。
――有難うございますが、夫の身の上案じられて、ささも喉へは通り兼ねます。
――そりゃそうなくてはならぬ筈じゃ、気の毒なことじゃ、身共たちに頼みとは、その男狐を助ける助太刀でもしろと望まるるか。
――義侠のお侍さまと見込んで、お情に縋ります。どうか、その男狐を七蔵がところへ行き、十両の身代金をお払い下さいまして、籠からお放ち下さいませ。
――十金か、こりゃ大金だ。なあ、鈴懸氏。
――浪人の身の上では、そうとう荷が勝ち過ぎるて。まあ、よい、何とか算段しよう。
――おいおい、引受けてよいのか。
――だが女狐さん。あんたの夫を助けることは引受けたが、これには何か引宛てがありそうなものだ。早く云えば、助けて上げる代りのお礼が。
――あなたさまの御立身出世、もし、ご家内さま、お子さまがおありなら、一生ご無事息災、末々お家繁昌の運をお授けいたします。
――は、は、は、は、家内もなし、子もなし、そのどれも一向わしには望みでないな。もっと直ぐに役立つものが欲しい。
――では、早速、明後日にも、大藩からよき禄高で召抱えの手引きでも。
――それも欲しくないな。