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きつね

狐

岡本 かの子

「文学界」1938(昭和13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,039 字 · 13 页

青空文庫

――他にお礼の心当りもございません。そちらから仰言って下さいませ。

――男狐を放してやったその礼には、冬の夜永の炬燵酒、一夜だけ私の望むままの話相手になって貰いたい。正体の狐じゃ困る。やっぱり只今通りの美女に化けてだ。

――すりゃ、夫のある身を。

――人間道では許されぬことだが、畜生道ならたいした障りでもあるまい。兎角、人の持ちものには食指の動く方でな。

女決心した思い入れあって

――ええ、よろしゅうございます。夫のためには遊里へ身を沈める慣いさえございます。

――無理を聞き入れて貰って何より頂上。では早速、明日にも男狐を救い出しに出かけよう。その狐師の家はどこだね。

――目黒不動裏の藪陰でございます。門に野犬の皮が干してあるのが、七蔵の家。

――しかと承知した。して、そなたが礼に来て呉れる夜は。

女艶にはにかむ嬌態をしながら

――日もつごもりの晦ごと、闇を合図にとんとんと、霰まじりに戸を叩いたら、それを合図と思召して下さい。

――確と約束いたしたぞ。

――では、お暇させていただきます。したが、あなたさまは何で先程からわたくしの足元ばかりご覧じてでございます。

――一たい狐狸の化けたのは、人間の姿はしていても地に敷く影は正体のままと聞いたが、そなたは影までたおやかな女の影、よほど行亙った化け方と感心して見ていたのさ。