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どくしん
独身
「スバル」1910(明治43)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,012 字 · 19 页
初め奉公に来た時は痩せて蒼い顔をしていて、しおらしいような処があった。それがこの家に来てから段々肥えて、頬っぺたが膨らんで来た。女振はよほど下がったのである。
宿元は小倉に近い処にあるが、兄が博多で小料理屋をしている。飯焚なんぞをするより、酌でもしてくれれば、嫁入支度位は直ぐ出来るようにして遣ると、兄が勧めたので、暫く博多に行っていたが、そこへ来る客というのが、皆マドロスばかりで、ひどく乱暴なので、恐れて逃げて帰ったのだそうだ。裏表のない、主人のためを思って働く、珍らしい女中である。しかし女として視ることはむずかしい。これまで一度も女だと思ったことがなかったが、今女だと思おうとしても、それがほとんど不可能である。異性のものだという感じは所詮起らなかった。
道具を片附けてしまって起って行くのを、主人は見送って、覚えず微笑した。そして自分の冷澹なのを、やや訝るような心持になった。
この心持が妙に反抗的に、自分のどこかに異性に対する感じが潜んでいはしないかと捜すような心持を呼び起した。
大野の想像には、小倉で戦死者のために法会をした時の事が浮ぶ。本願寺の御連枝が来られたので、式場の天幕の周囲には、老若男女がぎしぎしと詰め掛けていた。