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ろうしつき

狼疾記

中島 敦

「南島譚」1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,540 字 · 47 页

青空文庫

世間なんぞ問題にしていないようなことを言って置きながら、結局、自分の仕草の効果をお前は一番気にしているんじゃないか。もっとも、お前自身が心配するだけで、世間ではお前のことなんか一向気をつけていないんだから、つまりは、お前は、自分に見せるために自分で色々の所作を神経質に演じている訳だ。全く、どうにも手の込んだ大馬鹿野郎・度しがたい大根役者だよ。お前という男は。…………

気がつくと、三造は、何処かの店の飾窓の前のてすりにつかまり、硝子に額を押付けて危く身体を支えながら、半分睡っていたらしい。飾窓の明るさに眼をしばだたいてよく見ると、それは頸飾や腕輪や、そういう真珠の製品ばかりを売る店である。おでん屋の前でM氏と別れ、それからぶらぶらといつの間にか、弁天通という・この港町特有の外人相手の商店街まで歩いて来ていたに違いない。振りかえって通りを見れば他の店は大抵しまって人通もなくひっそりしているのに、この店だけは、どうした訳か、まだあけているようだ。目の前の飾窓の中では、真珠たちが、黒い天鵞絨の艶やかな褥の上に、ふかぶかと光を収めて静まっている。電燈の工合で、白い珠の一つ一つが、それぞれ乳色に鈍く艶を消したり、うす蒼く微かな翳をもったりして、並んでいる。