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ねこぐるま

猫車

宮本 百合子

「改造」1937(昭和12)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,310 字 · 35 页

青空文庫

近所にタバコ屋をしながら片手間にそういう世話をしている家がある。入ればそこが分をとるから、早速三停車場ばかり汽車で行って手続きして医者が来た。別に故障のない体であったが、二の腕にまきつけてしめる妙な道具を出した結果、血圧が高すぎておさやの保険は駄目ということになった。

そういう体に熱い湯はいけないと云われたし、おさやにしても庄平を見送らないうちは大事な自分の体と知りながら、五十年来の習慣はやめられない。湯の音がしたかと思うともうあがって、濡れて光る鬢を鏡もみず掻きつけながら、おさやは店先の神棚の前へ行った。マッチをすって右と左と御燈明をつけた。そして、その前へ立ったなり神社でするとおりパンパンと力のこもったせわしない手ばたきを二つした。それは、おがむというより神様の目をぱっちりさまさせる音のようにはきはきしている。

「あーッあ」

ひとりでに抑揚のある声が出るほどきっかり頭を下げておいてから、足早に庄平のねている中の間をぬけ、台所前の六畳へ来て勢よく戸棚の唐紙を引あけた。手のはずみで左側の唐紙をあけたりするときもあって、そうすると戸棚の中から古い経木の海水帽だの、とじめがきれてモミがこぼれるまま放りこんである枕だのが現れる。