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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

02 一九三五年(昭和十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,805 字 · 40 页

青空文庫

詩の事につき、又他の書くものにつきゆうべも話したが、私たちはまだ縦横自在ではないことを痛感し、もっとオク面なくなって、しかも正当な焦点をもつようになりたいと頻りに話したことです。小説を書くについても新しい現実の内容が豊富複雑錯雑して居て、直さんは小説勉強というものを『文学評論』にのせて、現実をいかにつかまえんかと苦慮して居ます。

ところで、今住んでいるこの家は、小学校のやかましさと風当りのつよさで閉口し、且つ水道のないことで参って、どっか近所にいい家があったら引越したいと思って居ります。いい家はあかない。困ったものです。「乳房」を書いた時は、切っぱつまってからは、前の同じ大家の長屋が一軒あいた。そこへ机と椅子を持ちこんで昼間居りましたが、それでは落ち付かないのです。

夜はこの二階はいい心持ちです。全くしずかで、この頃は居ながら桜をあなたこなたに眺め、寂とした校庭のむこうに当直室の灯が見えたりして。私は他の作家たちのように夜だけ書くのが好きではないでしょう。私は昼間が好き。しずかな昼間の部屋でものを書くのは何と健康で、ゆったりとしていいでしょう。